電子署名法3条に関するQ&Aの解釈について

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はじめに

 

2020年9月4日、総務省・法務省・経済産業省の連名により「利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A (電子署名法3条に関するQ&A)」(以下「3条Q&A」という)と題する文書が公表されました。今回は、3条Q&Aの解釈について説明します。

 

 

電子署名法3条の意義(電子文書における成立の真正)

 

電子署名法3条は「電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(中略)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われていると認められるときは、真正に成立したものと推定する」と定めています。

 

ここにいう「真正に成立した」とは、文書が作成者の意思に基づいて作成されたこと(他人によって偽造されたものではないこと)です。文書が真正に成立したと認められることは、その文書が裁判において証拠として利用できる条件であり、これを文書の形式的証拠力といいます。これに対し、文書の内容が事実であることを裁判官に認めさせる力を実質的証拠力といいますが、実質的証拠力は文書の内容によります。例えば、契約書が真正に成立したものとされれば、特段の事情のない限り、契約が成立したものと認定されます。文書が真正に成立したかどうかは、裁判において重要な意義を有するのです。

 

民事訴訟法228条4項は「私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する」と定めています。そして、印影が本人又は代理人の印章により顕出された場合には、反証なき限り当該印影は本人又は代理人の意思に基づき成立したと推定され、その結果同項の要件が満たされ、文書全体が真正に成立したものと推定されるというのが判例です(最判昭和39年5月12日民集18巻4号597頁)。このような印影による押印の推定は、印章は通常第三者が勝手に押印できないよう大切に扱われるという経験則に基づく事実上の推定です。

 

電子署名法3条は、電子文書の場合は電子署名が真正であるときに文書が真正であると推定するものです。これは、印影が真正であれば文書全体が真正に成立したものと推定されるという上記判例の考え方を電子文書・電子署名に適用しつつ、電子署名の特殊性から来る要件を定めたものといえるでしょう。

 

 

行政庁の解釈(固有性の要件)

 

3条Q&Aは、まず、電子署名法3条における「本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)」の意義を大要以下のとおり説明しています。

 

① 電子署名法3条に規定する電子署名に該当するためには、同法2条に規定する電子署名に該当するものであることに加え、「これ(その電子署名)を行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるもの」に該当するものでなければならない。このように電子署名法3条に規定する電子署名について同法2条に規定する電子署名よりもさらにその要件(これを「固有性の要件」などという)を加重しているのは、同法3条が電子文書の成立の真正を推定するという効果を生じさせるものだからである。

 

② 電子署名が「本人による」ものであることを要件としているのは、電子署名が本人すなわち電子文書の作成名義人の意思に基づき行われたことを要求する趣旨である。

 電子署名が作成者の意思に基づき行われたという要件(上記②)は、本人の押印が文書の真正を推定させるという民事訴訟法228条4項と同趣旨です。これに固有性の要件(上記①)を加重することで、電子署名による文書に形式的証拠力が備わることになります。既に述べたとおり、印影による押印の推定は、印章が厳重に保管されているという経験則を基礎に置きます。電子署名の場合は、それに代わるものとして、固有性の要件を加重したものといえるでしょう。

 

 

 

行政庁の解釈(立会人署名方式と電子署名法3条)

 

次に、3条Q&Aは、サービス提供事業者が利用者の指示を受けてサービス提供事業者自身の署名鍵による暗号化等を行う電子契約サービスは、電子署名法3条との関係では、どのように位置づけられるかについて、大要以下のとおり説明しています。

 

① 上記サービスが電子署名法3条に規定する電子署名に該当するためには、その前提として同法2条1項に規定する電子署名に該当する必要がある。この点については、令和2年7月17日付けの電子署名法2条1項に関するQ&Aにおいて、既に一定の考え方を示したとおりである。

 

② さらに、当該サービスが同条の定める「固有性の要件」を満たす必要がある。固有性の要件を満たすためには、(a)利用者とサービス提供事業者の間で行われるプロセスについて十分な固有性が満たされていること、(b)サービス提供事業者内部で行われるプロセスについて十分な固有性が満たされていること、が必要である。

 

③ (a)のプロセスにおいて十分な水準の固有性を満たしているかについては、2要素認証としてメールアドレス/パスワードの入力に加え、スマートフォンへのSMS送信や手元にあるトークンの利用等当該メールアドレスの利用以外の手段により取得したワンタイム・パスワードの入力を行うことにより認証するものなどが挙げられる。

 

④ (b)のプロセスについては、サービス提供事業者が当該事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う措置について、暗号の強度や利用者毎の個別性を担保する仕組み(例えばシステム処理が当該利用者に紐付いて適切に行われること)等が考えられる。

 

 

 サービス提供事業者が利用者の指示を受けてサービス提供事業者自身の署名鍵による暗号化等を行う電子契約サービス(立会人署名方式)については、それが電子署名法2条に定める電子署名に該当することは前回説明したとおりですが、3条Q&Aは、それが電子署名法3条に該当するための方法を示した点に意義があります。

以上のとおり、3条Q&Aについては、「最終的には、個別の事案における具体的な事情を踏まえた裁判所の判断に委ねられるべき事柄ではある」との留保はあるものの、立会人署名方式による電子署名についても、一定条件のもと電子署名法第3条の推定効が及びうるとの考え方が示されたことは、今後の電子署名サービスがより信頼性の高い形で健全に普及することに資するものと考えます。

 


Adobe Signの運用

 

最後に、Adobe Signでも携帯電話へワンタイム・パスワードをSMS送信するという2段階認証の仕組みを設けており、これを利用することで電子署名法第3条の適用が認めらるという解釈は可能です。しかしながら、3条Q&Aにおいても「裁判所の判断に委ねられるべき事柄」とも述べられているとおり、2段階認証の仕組みでも電子署名法第3条の適用が認められるかどうかは裁判所の判断次第であることにご留意が必要です。Adobe Signでは立会人署名方式と当事者署名方式の両方に対応しており、電子署名法第3条の適用には当事者型(電子署名)での運用を推奨しています。

 

 

 

この記事は、Adobe Signの業務/法令対応コンサルティングパートナーである、ケインズアイコンサルティンググループの監修の元に書かれております。

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